設立理念

「民主主義は最悪の政治といえる。これまで試みられてきた、民主主義以外の全ての政治体制を除けば」

 このチャーチルの言葉は、民主主義という理念・制度の特質を最もよく表すものとして広く知られています。民主主義は時間も労力も経済的コストもかかり、時として衆愚に陥る危険性もあるという負の側面も大きいですが、やはりその他の政治体制と比較すると、今日考え得る最良の政治の在り方であると考えられます。

 「みんなで決める」という意思決定の正統性やその決定過程の透明性、「みんなが望むことを行う」という国民への応答性や「議論の中から良質の結論が選ばれる」というアイデアの淘汰と洗練の側面等を踏まえると、少なくとも、一人や一部の人間が意思決定を独占する独裁制や権威主義体制よりは望ましい政治体制であるとの結論に至るのは必然です。

 しかし、現在においてこの民主主義が世界にあまねく浸透しているかと言えば、そうではありません。未だに民主主義とは相容れない政治体制が採られている国や、民主主義を採用するもそれが根付いているとは言い難い国も多いのです。そのような国の多くでは、民主的に物事を決められないことが、社会の経済的文化的な発展を阻害する一因になっていると考えられます。

 独裁者が私腹を肥やすために富を独占し、結果として必要な資源が国民に行き渡らなかったり、少数の権力者が自らの立場を守るために国民を抑圧したり、意思決定を公正に行うプロセスが欠けているために権力をめぐる暴力的な争いが起きたり・・・。各国において散見される低成長、貧困、紛争等をもたらす主たる要因は、詰まるところは民主主義が確保されていないことに求められる場合が多いと言ってよいでしょう。民主主義は、経済的社会的文化的な発展に至るための大前提なのです。

 民主主義の広め方にも様々な方法があるでしょうが、将来を見据えた持続可能で恒常的・継続的な民主主義の浸透を念頭に置くとすれば、社会の未来を担う子供たちをその取り組みの主たる対象とすることが考えられます。子供たちに民主主義を、社会を成り立たせる上での大前提であると認識させることで、将来的に民主主義が浸透し、民主的な成熟度が高まっていくものと想定されます。

 本会は、このような考え方の下、民主主義と教育の関係性に焦点を当て、民主主義の価値を子供たちにいかに教えていくかを考えるため、設立されました。

 本会での活動を通じて、民主主義が持つ力を形に変え、社会の安定と発展の基礎とすることに貢献できれば幸いです。     

                                 2019年6月 民主主義と教育を考える会


(※当会は弘前大学教育学部専任講師・蒔田純が中心となって設立された任意団体です。)